Blog(10) 研究(?):論文ができあがるまでの長~い道のり
2025.10.23
研究論文が出ました!というお知らせを出すときの達成感と幸せ感ったらありません!
研究成果というのは色々な指標から評価できるものですが、やはり論文が科学雑誌に掲載されるというのは、私にとっては非常に嬉しい瞬間であります。
というのも、論文が一本出版されるまでには、(研究のタイプや分野にもよりますが)本当に長い時間がかかります。
まず研究が始まる第一歩のプロセスとして、何を明らかにしたいか、どういう方法を使うのがいいのか。これをあぁでもない、こうでもない、と過去の文献などを見ながら考えるところから始まります。この工程は、最終的に、一つの問いとして、研究の軸となります。たとえば、「アートを鑑賞することは、ウェルビーイングにどんな影響を与えるのか?過去の研究から、どんなことが分かっているのか?」「感性経験は、アイデンティティ形成や社会的活動にどのように関わっているのか?」などなど。そしてこの問いに答えるために、ベストの研究方法を探していくわけですね。ある時は実験であったり、ある時は過去の研究を包括的にまとめるレビューであったり、研究論文といっても色々な種類があります。
何を明らかにしたいか、その方法が決まったら、実際に研究が始まります。心理学系の研究では、オンライン実験をしてさくっと被験者さんを集められる場合もありますが。たとえばP氏の専門分野である微生物の研究では、ラボにいって、バクテリアやウィルスを培養し、時間をおいて変化を見て、このプロセスを繰り返す、みたいな感じで、実験自体に何か月もかかる場合もあります。私自身今はフィールド実験を中心に実験をしているので、データを集めるのに結構時間がかかります。あと、冬のめちゃくちゃ寒い時期、夏の暑い時期、などは屋外の実験に向かないので、データを収集できる時期にも制限がありますね。平均すると、実験を始めてからデータを取り終えるまでに、3~4か月くらいかかります。
さて、データを取り終わったら、データの分析・論文執筆期間がやってきます。質問紙や調査など、処理が簡単なものは、1日~2日もあればデータの解析は終了しますが、眼球運動・生理指標など、データを処理するのに時間がかかる実験では、ここの行程に半年くらいかかることもざらにあります。論文を書く時は、自分一人で全て書く時もあれば、共著者の人たちと書く部分を分担することもあります。共著者の人数が多かったりすると、締め切りに間に合わない人が出てきたり等、さらに遅れが出る場合ももちろんありますね(笑)
論文が書き終わったら、ついに、論文を科学雑誌に投稿します!ScienceとかNatureとかは、超有名どころな科学雑誌ですね。ここがまず第一の目標。ですが、投稿したからといって、論文が必ず掲載されるわけではありません。投稿された論文は、査読に回されます。査読というのは、論文の内容・健全性・妥当性といったクオリティを、外部の専門家がチェックする行程です。心理学系の論文だと、一本の論文につき2~3人くらいの査読者(レビュワー)がついて、投稿された論文をチェックするんですねぇ。私は論文を投稿もしますが、査読者になる場合もあります。査読プロセスは、忖度がないように、「著者と共同研究の経験が(できるだけ)ないこと」「査読者は匿名でレビューをすること」みたいな決まりがあります。「この人仲良しだから、論文アクセプトしてあげよ~」みたいなことがないようにしているわけですね。
この査読プロセスが、めちゃくちゃ時間がかかるし、精神的負担が大きい部分だと思います(笑)まず、投稿して速攻、お祈りメールをいただくことも多いです。「この内容は、私たちの雑誌には向かないです~」「研究と執筆のクオリティを改善してから、また投稿してください~」など、すぐに断られることもざらにあります。早く結果を知らせてもらえると、次の雑誌に投稿したりできるので、こういう早めのお知らせはむしろありがたいです。
実際に査読者からのコメントが返ってくると、それをもとに私たちは論文や分析の内容を修正し、再度修正版を投稿し、このプロセスを2~3回繰り返します。きついのは、この修正プロセスに1年とか2年とか時間がかかった後に、「やっぱり掲載できません。」とお知らせを受けるときですね。論文の修正に費やしてきた時間を振り返って、絶望することもしばしば(笑)。心理学系の雑誌の査読期間は特に長いです。個人的な経験ですが、最短査読期間は半年、最長では5年(現在も記録更新中です笑)かかったこともあります。
さて、レビュワーたちが修正版に満足すると、いよいよ雑誌から「掲載承諾(アクセプト)」の連絡がやってきます。この瞬間は、今になっても、飛んで喜んでますね(笑)承諾されると、出版社が論文を校閲してくれて、それを著者が確認し、晴れて雑誌に掲載!となるわけです。
というわけで、研究の始まりから終わりまで、全ての期間をカウントすると、一つの論文がでるまでに、最短で1~2年はかかります(私の場合です)。長ければ10年、15年も普通にありえますね。この期間の間に、私たちは論文の内容をアップデートしたり、修正したりしているわけです。
研究者にとって、論文たちは本当に目に入れても痛くないほど思いがつまっているものなのです。
そして私は今日も今日とて、実験をし、論文を書き、この子たちが出版される日を夢見ているのでした。いつになることやら(笑)
Bis Bald!