Blog(14) 心理学:「予想どおりに不合理」
2025.10.29
P氏は日本語を勉強中でして、日本語学習の一環として、私たちはネットフリックスで日本のドラマを一緒に見ています。ドイツ語字幕つきなので、私もドイツ語の勉強になって一石二鳥なのです。
最近一緒に見ているのは、「東京タラレバ娘」。2017年頃に日本テレビで放送されていたドラマです。原作を読んだことはないのですが、超ざっくり要約すると、30代の女友達三人が、幸せをつかむべくそれぞれの恋愛に奔走する、というのが大まかなストーリー。
昨日ドラマの続きを見ていたところ、気になったところがあったのでご紹介。
ネイリストのカオリは、バンドマンの元カレ、涼に偶然が重なり再会します。昔全然売れていなかったバンドマンの彼は、再会すると大成功しているスターになっていました。高鳴る期待、やはり彼は運命の相手?!と思っていたのもつかの間、彼には新しい彼女がいることが判明。ガッカリするカオリですが、逢瀬を重ね、彼の「セカンド」として関係が続くことになります。
そんな中カオリに妊娠疑惑が浮上。不安の中、涼にそのことを報告すると、「カオリが決めていい。」と言われてホッとするカオリ。ですが、結局妊娠はしておらず、そのことを彼に報告すると「あぁ~よかった~焦った~。」と電話越しに伝えられます。子どもが生まれていたら彼の一番になれていたかもしれない?彼が交際を考え直してくれたかもしれない?という考えが脳裏によぎると同時に、そんな風に考える自分に情けなさを感じるカオリ。自然と涙を流します。そんな中、彼女の足はそれでも、また彼の部屋に向かおうと動き出すのです。
そこに知り合いの鍵谷が現れ、カオリにこういいます。
「あんた何やってんだよ。今行ったらまた同じことの繰り返しだろう。それでいいんだ?」
「いいわけないじゃん。これでいいなんて、思ってるわけないじゃん。行っちゃだめだって分かってる。自分でも思ってる。こんなのもう終わりにしたいって。でも、自分じゃあ止められないの。」
ここです。人の心理を表している実に面白いシーンだと思います。「幸せになりたい」と願っているカオリに対して、鍵谷は、なぜ逆に「幸せになれない」選択をし続けるのか、つまりなぜ不合理な選択をするのか、問うわけですね。それに対してカオリは、「わかっちゃいるけどやめられないんだ」と、不合理なのは分かっているけど、そうせざるを得ない、と返すわけですね。
このシーンには、人間のさまざまな心理的背景を見ることができます。
そもそも人間は、客観的な損得に従って選択をする生き物ではありません。本日のタイトルである「予想どおりに不合理」というのは、心理学者・行動経済学者であるダン・アリエリーの著名な著書です。ただし、一見不合理に見える行動や選択の中には、一定の法則性があるため、その不合理性は予想できる、ということから「予想どおりに不合理」となるわけですね。
人間の一見非合理的に見える選択や行動について、分かりやすく書かれているので、ご興味のある方は、読んでみると面白いかもしれません。マーケティングなんかでも、よく参照されている内容かと思います。
『予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』(早川書房,2008年)
行動経済学では、人間は損失を回避する傾向にあることが古くから提唱されていますね。100万円の利益が出る、100万円の損失が出る、どちらも損得の客観的な額は同じですが、私たちは損失を避ける選択をする傾向にあります。なので、100万円得をするよりも、100万円の損失を避ける選択をする人の方が多い、という感じですね。
カオリが選択し続ける不合理性にも、似たような背景を見ることができます。「他の人と幸せになる」選択と、「幸せになる可能性は低いけれど、涼を失わない」選択を天秤にかけたとき、彼女は後者を選択しているわけです。つまり涼を失うという損失を回避しているわけですねぇ。
そもそも「客観的に合理的・非合理な選択」を定義すること自体が難しいですが、それでも「私なんでこんなこんなことしてるんだろう?」「あの人言ってることと、やってること矛盾してるじゃん」というような状況には良く出くわします。
人の行動・選択というのは、それほどに複雑な構造をしているんですねぇ。人間は実に面白いものです。
Bis Bald!