Blog(15) 心理学:絵画鑑賞の心理学

2025.10.30

秋といえば、芸術の秋ですね!この時期から始まる企画展なんかも多いんじゃないでしょうか。

本日のサムネイルは、アートにしてみました。この画像を見たときに、皆さんはどう感じましたか?綺麗だなぁ、面白いなぁ、と思う人もいれば、あんまり好きじゃないなぁ。とおもう人ももちろんいるでしょう。そもそも、芸術作品に対する評価や、そこから立ち上がる経験って、そもそもどういう風に生まれているんでしょうか。

ということで!芸術の秋、本日は特に絵画作品を鑑賞する際に、私たちの心の中で起こっていることについて、ご紹介しましょう。

今回ご紹介する論文は

Leder et al. (2004). A model of aesthetic appreciation and aesthetic judgments. British Journal of Psychology, 95, 489–508

(ここでは、感性経験と評価に関するモデル、として訳しておきます。)

私のボスの論文であります。えへへ。芸術と感性に関する心理学は、長い歴史を持つ学問分野ですが、注目が集まり始めたのは2004年ころからなんですね。2004年は芸術と感性に関する心理学のまさに、ゴールデンエイジといっても過言ではなく、この分野に大きな影響をもたらした論文がたくさん出た年でした。そして、まさにこの論文もその一つであります。このモデルは、私たちの分野の中で最も多く引用されている論文の一つであり、まさにパラダイムシフトといえる内容が書かれています。

まず、この論文は実験論文ではありません。なので、何か実験をしてその結果が書かれているような論文ではないのですね。では何が書かれているかというと、これまで心理学で分かってきたことを踏まえて、私たちが絵画を鑑賞しているときに、「起こりうる」心理プロセスについて書かれています。「起こりうる」プロセスなので、ここで書かれていることは著者が自分の考えをまとめた、仮説的な内容になっています。こういうタイプの研究成果は、その主張をもとに、他の研究者たちが、未来の実験を組み立てていく手助けになります。たとえば、「この論文ではこういう主張がされている。では実際に実験して検証してみよう!」みたいな感じで、他の研究者たちが問いや仮設を組み立てる土台として機能します。そして、研究者間での議論を促す役目もありますね。もちろん、著者たちの仮説なので、それに賛同する人も、反対する人もいますが、こういう論文が出ると研究者間での議論や意見交換が促進されます。こうした批判や議論をもとに、さらに新しいモデルや仮設が生まれてくる。つまり、研究の新陳代謝を促すような効果もあるわけですなぁ。

ということで、このモデルの内容に移りましょう。私のボスは約20年前に何を主張したのでしょうか。

当時このモデルが革新的であった理由は、絵画鑑賞中の心理過程について、「包括的に」まとめた点にあります。ここで著者は、芸術や絵画を鑑賞するというプロセスは、単一の心理プロセスではなく、複数のプロセスが段階的に、そして相互に影響しあって、最終的な評価や経験(美しさ、楽しさ、嬉しさ等)に結びついているんだ、と主張しました。

【1.知覚処理】→【2.記憶の想起、過去の経験を参照する潜在的プロセス】→【3.意識的な分類】→【4.認知的熟達】→【5.感性評価・感情の経験】

このモデルに含まれている5段階のプロセスはこんな感じですかね。まず当然、芸術作品を見ることで、その知覚情報が処理されます。色や構造、額縁、飾られている空間との整合性などなど、私たちはさまざまな情報を知覚し、処理しています(1.知覚処理)。処理された情報から、これまでの経験・記憶が想起されます(2.記憶の想起、過去の経験を参照する潜在的プロセス)。これまでの経験則に応じて、私たちはその作品を分類しはじめます(3.意識的な分類)。たとえば、「あぁこれは印象派の作品だな」「このスタイルはどこかで見たことがあるな」「これは誰々の作品かな」といった具合ですね。そしてインプットをもとに、私たちは作品を解釈しはじめます(4.認知的熟達)。「これはどういう意味なんだろう」「どうしてこの方法を使ったんだろう」といった感じ。そして最終的に、この包括的なプロセスを経て、「この作品が好きだな」「この作品は本当に美しいな」「感動した」といった、評価や感情に着地するわけですねぇ。

このモデルでは他にも、鑑賞が発生する文脈や、芸術への興味や関心が、この包括的なプロセスに影響を与える、と主張されています。つまり「これから美術館に行こう」と決めて何かを鑑賞するときと、その全く同じ何かと、道中でばったりめぐりあった場合では、自分たちの経験自体が全く違ってくる。というわけですね。

2004年、このモデルが発表されるまで、芸術と感性に関する心理学は存在していましたが、研究者たちは何か1つの心理プロセスだけに注目して、それについて調べる、という方法が主流でした。このモデルは、それまでの知見をまとめあげ、芸術鑑賞がいかに複雑な心理プロセスを含んでいるか、その可能性を指摘していますが、それを皮切りに、色んな分野の心理学者たちが感性経験に興味を持つようになります。「芸術とか全然関係ないと思っていたけど、もしかしたら自分の分野とも何か関係があるかもしれない」。こういった気づきが派生して、この心理学分野はどんどん大きくなっていったわけです。

もう20年前の研究なので、このモデル自体近年アップデートされていますが、現在の知見を持っても、このモデルで言われていることは間違っていないと言えるでしょう。文脈や個人差を取り入れ、そこから立ち上がってくるさまざまな心理プロセスをまとめあげた、という点において、この論文は間違いなくマイルストーンとなる研究成果です。

皆さんも次回、美術館にいくときにでも、このモデルを思い出してみてください。作品と自分がどんな会話をしているのか、注目してみると、面白いかもしれません。

Bis Bald!

本日のご褒美コーヒー(習慣形成は継続中ですよ!!)。源右衛門花紋のマグカップでいただきます🎵

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